高齢者の食欲不振、どうすれば?家庭でできる原因と食事の工夫
高齢者の食欲不振は、ご家族にとって大きな心配の種となることが多いものです。「食欲がない」「あまり食べてくれない」といった状況が続くと、低栄養に繋がるのではないかと不安を感じられる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、高齢者の食欲不振の主な原因や、ご家庭でできる食事の工夫、そして食欲がないときでも栄養を摂りやすくするための具体的なアイデアをご紹介します。ご家族の食事の準備や介助にお悩みの方の、少しでもお役に立てれば幸いです。
高齢者の食欲不振、その背景にあること
高齢者の食欲不振には、様々な要因が複雑に関係している場合があります。病気が原因の場合もありますが、それ以外にも加齢に伴う体の変化や生活環境の変化などが影響していることも少なくありません。
主な原因として考えられるのは以下のようなものです。
- 味覚や嗅覚の変化: 加齢により味を感じる機能や匂いを嗅ぐ機能が低下し、食事が美味しく感じにくくなることがあります。
- 消化機能の低下: 胃液の分泌が減るなど、消化吸収能力が低下し、少量でもお腹がいっぱいになりやすく、胃もたれなどを感じやすくなることがあります。
- 口腔内の問題: 歯の不調、入れ歯の不具合、口内炎、ドライマウス(口腔乾燥症)などがあると、噛むことや飲み込むことが難しくなったり、食事中に痛みを感じたりして、食事が億劫になることがあります。
- 薬の副作用: 服用している薬の種類によっては、吐き気や食欲不振、味覚の変化といった副作用が現れることがあります。
- 運動量の減少: 活動量が減るとエネルギー消費も少なくなり、自然と食欲も低下する傾向があります。
- 心理的な要因: 一人で食事をする、生活に変化があった、ストレスや不安を感じているなど、心理的な影響も食欲に大きく関わります。
- 全身の倦怠感や体調不良: 風邪をひいた、なんとなく体がだるいなど、病気とまではいかなくても体調が優れない時には食欲が落ちやすいものです。
これらの要因が単独または複数組み合わさることで、食欲不振に繋がることがあります。
家庭でできる食事の工夫と介助のポイント
食欲不振の原因をすべて取り除くことは難しいかもしれませんが、ご家庭での日々の食事や介助において、食欲を引き出したり、食べる意欲を高めたりするための工夫を行うことは可能です。
食事の環境を整える
- リラックスできる雰囲気作り: 静かで落ち着いた環境で食事を提供しましょう。テレビを消す、BGMを穏やかなものにするなども効果的です。
- 声かけの工夫: 食事の前に「ご飯ができましたよ」「美味しそうな匂いがしますね」など、前向きな声かけをすることで、食事への意識を高めることができます。「食べなさい」といった強制的な声かけは避けましょう。
- 一緒に食卓を囲む: 可能であれば、ご家族が一緒に食卓を囲むことで、会話が弾み、食べる楽しみを感じやすくなります。
- 適切な姿勢の確保: 座って食べる場合は、椅子に深く腰かけ、足の裏が床につくように調整すると安定します。ベッド上で食べる場合は、上半身を起こして誤嚥(食べ物や飲み物が誤って気管に入る)を防ぐ工夫が必要です。
食事内容と提供方法の工夫
- 少量から提供する: 一度にたくさんの量を出すと、それだけで食べる意欲が失われることがあります。少量ずつ提供し、「もう少し食べられますか?」と確認しながら進めるのが良いでしょう。
- 見た目を華やかに: 彩り豊かな食材を使ったり、小さな器や本人のお気に入りの器に盛り付けたりすることで、見た目から食欲を刺激することができます。
- 温度の調整: 温かいものは温かく、冷たいものは冷たく。料理の適温は食欲を左右します。
- 食べやすい形態に: 噛む力や飲み込む力に合わせて、食材の大きさや硬さを調整しましょう。刻み食、ミキサー食、ムース食など、本人の状態に合った形態を選ぶことが重要です。(※食事形態については別の記事で詳しく解説します)
- 味付けや香りの工夫:
- だしの活用: 旨味成分を多く含むだし(かつおだし、昆布だしなど)を使うと、薄味でも美味しく感じやすくなります。
- 酸味や香りのアクセント: レモン汁、酢、薬味(生姜、ネギ、みょうがなど)、香味野菜(セロリ、パセリなど)は食欲を刺激する効果があります。ただし、刺激が強すぎないように注意が必要です。
- 甘味の利用: デザートや果物は比較的食べやすいことが多く、エネルギー補給にもなります。
栄養を効率的に摂る工夫
食欲が低下している場合でも、必要な栄養をしっかりと摂るための工夫が必要です。特にエネルギー源となる炭水化物や脂質、そして筋肉や体の機能を維持するためのたんぱく質を意識しましょう。
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少量でも高エネルギー・高たんぱくに:
- 油脂を加える: 汁物や和え物に少量のオリーブオイルやごま油を加える。炒め物や煮物を作る際に油脂をいつもより少し多めに使う。
- 乳製品を利用: 牛乳、ヨーグルト、チーズは手軽なたんぱく源・エネルギー源です。料理に使ったり、単体で提供したり。
- 卵や大豆製品を活用: 卵豆腐、茶碗蒸し、きな粉、豆腐などは柔らかく食べやすく、たんぱく質が豊富です。
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間食(補食)の活用: 3回の食事で十分に食べられない場合は、食事と食事の間に捕食として栄養価の高いものを少量提供しましょう。
- 例:ヨーグルト、プリン、ゼリー、カステラ、おにぎり、サンドイッチ、スープ、牛乳など。市販の栄養補助食品(栄養ゼリー、栄養ドリンクなど)も、必要に応じて活用を検討できます。ただし、これらはあくまで補助であり、基本は食事からの栄養摂取を目指すことが大切です。
簡単!栄養補給レシピアイデア
特別な材料や手間をかけずに作れる、食欲がないときにも試しやすい栄養補給のアイデアをご紹介します。
### 卵とじ栄養スープ
- 材料例:
- お好みの野菜(ほうれん草、きのこ、にんじんなど): 少量
- 豆腐または鶏ひき肉(柔らかいもの): 少量
- 卵: 1個
- だし汁: 200ml
- 醤油、みりん、塩: 少々
- お好みでごま油: 数滴
- 作り方:
- 野菜や豆腐(またはひき肉)を小さく切り、だし汁で柔らかくなるまで煮ます。
- 醤油、みりん、塩で味を調えます。
- 溶き卵を回し入れ、ふんわりと卵が固まったら火を止めます。
- 器に盛り付け、お好みでごま油を数滴垂らすと香りが良くなり、エネルギーもアップします。
- ポイント: 具材は消化しやすく柔らかいものを選びましょう。卵でたんぱく質が、ごま油でエネルギーが手軽に補給できます。
### きな粉ヨーグルト
- 材料例:
- プレーンヨーグルト: 100g
- きな粉: 大さじ1〜2
- はちみつまたは砂糖: お好みで
- 作り方:
- 器にヨーグルトを入れます。
- きな粉とはちみつ(または砂糖)を加えてよく混ぜ合わせます。
- ポイント: きな粉は良質なたんぱく質と食物繊維が豊富です。ヨーグルトのたんぱく質やカルシウムも一緒に摂れます。混ぜるだけで簡単に作れる補食としてもおすすめです。
### 栄養強化ミルクココア
- 材料例:
- 牛乳: 150ml
- ココアパウダー: 大さじ1
- 砂糖: お好みで
- 粉ミルク(育児用または介護用栄養強化タイプ): 大さじ1〜2(※)
- 作り方:
- 鍋に牛乳、ココアパウダー、砂糖を入れてよく混ぜながら温めます。
- 沸騰直前で火から下ろし、粉ミルクを加えてよく溶かします。
- ポイント: 牛乳とココアでエネルギーとたんぱく質、カルシウムが摂れます。介護用栄養強化タイプの粉ミルクを加えると、さらに手軽に様々な栄養素をプラスできます。温かい飲み物はリラックス効果も期待できます。(※粉ミルクを使用する場合は、製品の指示に従ってください。)
これらのレシピはあくまで一例です。ご本人の好みや食べられる量、アレルギーなどを考慮して、様々な食材でアレンジしてみてください。
こんな時は専門家へ相談を
家庭での工夫を試みても食欲不振が続いたり、体重が明らかに減少している、元気がない、脱水症状が見られる、特定の栄養素不足が疑われる症状が出ているなど、心配な点がある場合は、必ずかかりつけ医や管理栄養士、地域包括支援センターなどの専門家に相談してください。
食欲不振の背景に病気が隠れていたり、専門的な栄養指導や介助方法のアドバイスが必要な場合があります。決して自己判断せず、専門家のサポートを借りることが、ご本人の健康維持にとって最も重要です。
まとめ
高齢者の食欲不振は、ご家族にとって多くの悩みや不安をもたらします。しかし、その原因を理解し、食事の環境や内容、提供方法を工夫することで、食欲を引き出し、必要な栄養を摂りやすくすることは可能です。
焦らず、ご本人のペースに合わせて、少しずつ試してみてください。そして、どうしても改善が見られない場合や心配な症状がある場合は、ためらわずに専門家にご相談ください。
この記事が、日々の介護食準備と介助の一助となれば幸いです。ご家族が抱える負担が少しでも和らぎ、穏やかな食事の時間を過ごせることを願っています。