高齢者の食事、硬い・大きいが苦手なら?食事形態の選び方と調理の工夫
高齢のご家族の食事を用意する際、「硬いものが食べにくそう」「飲み込むのが大変そう」といったお悩みはありませんか? これは、加齢に伴う咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)の機能低下が原因かもしれません。適切な食事形態を選ぶことは、誤嚥(食べ物が気管に入ってしまうこと)を防ぎ、安全に食事を楽しんでいただくために非常に重要です。
この記事では、高齢者の咀嚼・嚥下能力に合わせた食事形態の選び方と、ご家庭でできる具体的な調理の工夫についてご紹介します。
なぜ高齢になると食事形態の工夫が必要になるのか
加齢に伴い、以下のような体の変化が起こることがあります。
- 咀嚼機能の低下: 歯の状態や顎の筋力の低下により、食べ物を十分に噛み砕くことが難しくなります。
- 嚥下機能の低下: 食べ物をスムーズに食道に送り込むための舌や喉の動きが衰え、飲み込みにくさを感じたり、むせやすくなったりします。
- 唾液の分泌量減少: 唾液が減ると、食べ物がまとまりにくくなり、飲み込みの助けが減ります。
これらの変化に対応せず、通常の食事を提供し続けると、うまく噛めずに食欲が低下したり、誤嚥のリスクが高まったりする可能性があります。安全に、そしてしっかりと栄養を摂っていただくためには、ご本人の状態に合わせた食事形態への調整が大切です。
高齢者向けの主な食事形態とその特徴
高齢者の咀嚼・嚥下能力に合わせて、食事はいくつかの形態に分けられます。ご本人の状態を観察しながら、適切な形態を選びましょう。
- 常食: 健康な方が召し上がる一般的な食事です。特に噛むこと、飲み込むことに問題がない場合。
- 一口大(きざみ食): 常食の食材を、噛みやすいように1〜2cm角程度に小さく刻んだものです。噛む力は弱いが、舌や喉の動きに大きな問題がない場合に適しています。ただし、小さく刻むことで食材が口の中でバラけやすくなり、むせやすくなる場合もあるため、とろみをつけるなどの工夫が必要になることがあります。
- ソフト食: 舌で潰せるくらいの柔らかさに調理した食事です。噛む力がかなり弱くなった方や、入れ歯が合わない方などに適しています。食材本来の形を残しつつ、柔らかく調理されているのが特徴です。
- ミキサー食: 食材をミキサーやブレンダーにかけて、ポタージュ状やペースト状にした食事です。噛む力や飲み込む力が著しく低下した方、固形物がほとんど食べられない場合に適しています。水分が多くなりがちで、栄養が摂りにくくなることがあるため、栄養強化やとろみ付けが重要になります。
- ゼリー食: 栄養補助ゼリーや、ミキサー食にとろみ剤やゲル化剤を加えてゼリー状に固めた食事です。飲み込む力がさらに低下した方や、誤嚥のリスクが高い場合に用いられます。口の中でまとまりやすく、比較的安全に摂取しやすい形態です。
ご家庭でできる食事形態の工夫と調理のポイント
介護食をすべて市販品に頼るのではなく、いつもの食事に少しだけ工夫を加えることで、ご家庭でも高齢者に優しい食事を用意することができます。
1. 食材の選び方と下ごしらえ
- 柔らかい食材を選ぶ: 魚は骨の少ない白身魚、肉はひき肉やささみ、野菜は葉物や根菜でも火を通すと柔らかくなるもの(大根、人参など)を選びましょう。
- 繊維の多い食材は避けるか工夫する: ゴボウやレンコンなど繊維が多いものは避けたり、筋の多い肉はミンチにしたり、皮をむいて柔らかく煮るなどの工夫をします。
- 固い部分は取り除く: 魚の骨や皮、肉の筋、野菜の硬い芯などは丁寧に取り除きましょう。
2. 調理方法の工夫
- じっくり煮込む: 肉や野菜は、だし汁などで時間をかけて柔らかくなるまで煮込みます。圧力鍋を使うと短時間で柔らかくできます。
- 蒸す: 蒸すことで食材がふっくらと柔らかく仕上がります。素材の味も活かせます。
- 揚げる・炒めるを控える: 揚げる・炒める調理法は硬くなりやすいため、煮る・蒸す・茹でるを中心に考えましょう。
- とろみをつける: 片栗粉や市販のとろみ剤を使って、汁物や煮物にとろみをつけると、食べ物がまとまりやすくなり、誤嚥を防ぐのに役立ちます。
- ミキサーにかける: 煮込んだ食材をミキサーやブレンダーでなめらかなペースト状にします。この際、水分を加えすぎると栄養密度が薄まるため、だし汁や牛乳、栄養補助食品などを利用するのも良い方法です。
- ゼラチンや寒天で固める: スープやジュースなどをゼリー状にすると、口の中でまとまりやすく、飲み込みやすくなります。
3. 味付けと盛り付け
- 薄味にする: 濃い味付けは喉の渇きを招き、むせの原因になることがあります。素材の味を活かした薄味を心がけましょう。
- 香りを活かす: 食欲をそそるために、だしや香味野菜(生姜など)を上手に使いましょう。
- 見た目を工夫する: ミキサー食などで見た目が単調になりがちな場合は、彩りを添えたり、ゼリーで形を整えたりすることで、食事の楽しみを演出できます。
食事形態を選ぶ上での注意点
- ご本人の状態をよく観察する: 食事中にむせないか、しっかり噛めているか、飲み込みに苦労していないかなど、日々の様子を観察することが大切です。
- 急激な変更は避ける: 急に食事形態を変えると、食欲が落ちたり、混乱したりすることがあります。少しずつ、様子を見ながら調整しましょう。
- 栄養バランスを考慮する: 柔らかくしたり小さくしたりすることで、かさが減り、十分な量が食べられないことがあります。少量でもエネルギーやタンパク質がしっかり摂れるように、牛乳や卵、豆腐、栄養補助食品などを活用し、栄養密度を高める工夫をしましょう。
まとめ
高齢者の咀嚼・嚥下能力に合わせた食事形態の工夫は、安全に食事を続けていただく上で非常に重要です。ご家庭でも、食材の選び方や調理方法を少し工夫するだけで、食べやすく栄養も摂れる食事を用意することができます。
もし、ご家族の食事に関するお悩みや、どのような食事形態が適しているか判断が難しい場合は、かかりつけ医、歯科医、管理栄養士、言語聴覚士などの専門家にご相談されることをお勧めします。専門的なアドバイスを受けることで、より安心して介護食に取り組むことができるでしょう。